【国際社会文化研究所】指定研究プロジェクト シンポジウム開催報告

 2月7日(月)、国際社会文化研究所指定研究「異文化理解と多文化共生―神秘主義思想とその実践を通じたイスラームとキリスト教の共生を探って―」(代表:佐野東生・国際学部教授)(2018~2021年度)の最終的成果として、「神秘思想における「善悪の彼岸」―否定神学と悪魔論をめぐって―」と題するシンポジウムを開催しました。このシンポジウムではキリスト教、イスラーム、そして仏教の専門家を招き、それぞれの宗教の立場から、通常の肯定神学とは逆の否定神学、それと関係した善悪論を論じました。

 午前の部では、キリスト教から本指定研究客員研究員の鶴岡賀雄・東京大学名誉教授(日本宗教学会会長)が基調講演を行い、西欧キリスト教の神秘思想の伝統に基づく否定神学の起源と発展、および「善悪の彼岸」を視野に入れた悪魔と善悪論についてプロティノス、ヤコブ・ベーメなどを中心に説明しました。続いて久松英二・国際学部教授(本指定研究兼任研究員)が東方キリスト教の否定神学の発展について、プラトンからニュッサのグレゴリウスを経てギリシア正教のヘシュカズム(静寂主義)の大成者・パラマスに至る系譜を明解に説明しました。これらを受け、野元 晋・慶應義塾大学教授(本指定研究客員研究員)がイスラームの立場から、特にシーア派の一派であるイスマーイール派が否定神学を発展させたが、それを東方正教の神秘主義のように「神との合一」の思想に繋げなかった旨のコメントをしました。

 午後の部では、佐野が本指定研究の成果としてカリフ・アリーの『雄弁の道』(アラビア語)から悪魔への対処法をめぐる「カースィアの説教」翻訳を完成・発行した旨の報告がなされ、あわせて代表的イスラーム神秘家の一人・ルーミーの悪魔観についてあくまでイスラーム的善悪の規範を守りつつも、悪魔に善を際立たせる意味を持たせるなどの説明がなされました。次いで平野貴大・日本学術振興会PD(本指定研究客員研究員)がクルアーンにおける悪魔観について、悪魔のルーツが天使かジン(精霊)かをクルアーン解釈学のテキストに基づき分析しました。最後に仏教について、嵩満也・龍谷大学教授が否定神学、善悪観の関係を、仏陀の思想から神秘思想とも関係する空の思想を経て親鸞思想に至る展開を中心に解説しました。これを受けて井上善幸・龍谷大学法学部教授が親鸞と空の思想を補足し、その善悪観が通常の善悪よりも真実/不実に基づくと説明しました。

 総じて本シンポジウムでは比較宗教学的に、神秘思想に立脚した各宗教の否定神学との関係、また善悪観がときに通常の概念を超えて「善悪の彼岸」に至り、より生き生きとした善悪観に回帰・再生する様相を説明することを通じ、各宗教の接点を見出す手がかりを示唆しえた点が評価できると思われます。

要旨・レジュメは以下よりご覧いただけます。

 鶴岡 賀雄:要旨レジュメ

 久松 英二:要旨レジュメ

 野元 晋 :レジュメ

 佐野 東生:レジュメ

 平野 貴大:レジュメ

 嵩 満也 :要旨レジュメ

 井上 善幸:レジュメ